水ようかんの構成元素

天川さく


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 頭の中が沸騰していた。
 すべてを滅茶苦茶にしてやりたくてたまらなくて、堪え切れなくて、我慢しきれなくて、ぼくはカフェにあるすべてのものを破壊しまくった。テーブルの上にある食器を粉々にし、テーブルそのものをハンマーでたたき割り、観葉植物を幹から二つに折って、それでも腹の虫が収まらず、飛び散った葉を何度も何度も足で踏みつぶした。
 ぼくの奪われた十七年を、ただ奪われるなどとぼくの自尊心が許すはずもなく、ならせめて自分の手でさらに穢してなかったことにしようと試みて、腕から血が噴き出すのも構わず、足の骨が折れる音がするのも厭わず、ぼくは暴れ続けた。
 彼女はそんなぼくにほほ笑んでマシュマロ入りココアを差し出した。血だらけで、真っ赤に染まって、目をぎらぎらさせていたぼくを恐れるふうでもなく、彼女は心底楽しそうに笑ってカップを差し出していた。
 そうだ。ぼくは気づいた。彼女の笑みは『作りモノ』であることを。いつも笑っている彼女。いつも楽しげにしている彼女。それはぜんぶ演技だ。
 彼女は笑う。えへへ、と笑う。
 今もそうだ。
 彼女が心の底から笑える対象、それはただひとつ以外に、ない。
 そしてそれは──ぼくではない。

◇◆
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