水ようかんの構成元素
天川さく
◆◇
頭の中が沸騰していた。
すべてを滅茶苦茶にしてやりたくてたまらなくて、堪
え切れなくて、我慢しきれなくて、ぼくはカフェにある
すべてのものを破壊しまくった。テーブルの上にある食
器を粉々にし、テーブルそのものをハンマーでたたき割
り、観葉植物を幹から二つに折って、それでも腹の虫が
収まらず、飛び散った葉を何度も何度も足で踏みつぶし
た。
ぼくの奪われた十七年を、ただ奪われるなどとぼくの
自尊心が許すはずもなく、ならせめて自分の手でさらに
穢してなかったことにしようと試みて、腕から血が噴き
出すのも構わず、足の骨が折れる音がするのも厭わず、
ぼくは暴れ続けた。
彼女はそんなぼくにほほ笑んでマシュマロ入りココア
を差し出した。血だらけで、真っ赤に染まって、目をぎ
らぎらさせていたぼくを恐れるふうでもなく、彼女は心
底楽しそうに笑ってカップを差し出していた。
そうだ。ぼくは気づいた。彼女の笑みは『作りモノ』
であることを。いつも笑っている彼女。いつも楽しげに
している彼女。それはぜんぶ演技だ。
彼女は笑う。えへへ、と笑う。
今もそうだ。
彼女が心の底から笑える対象、それはただひとつ以外
に、ない。
そしてそれは──ぼくではない。
◇◆