abstract

連作短編ミステリ。
君野総長との和解を果たした岩井クンの前へ現れたのは、岩井クン専属のSP・キジ。愛知のソウルフード・かきもち変型判が段ボール10箱以上届いたり、北海道の真冬なのにつなひき大会に誘われたり。なぜぼくを誘う? 君野総長がまだなにかしかけている? そこで襲うクレープ。ああもうっ。こんなことをしてる場合じゃないのに。2月はすぐなのにっ。岩井クン受難の第4巻。

about

【原稿用紙換算枚数】87枚
【読了目安時間】1時間
2018/7/6 配信開始

試し読み

◇◆試し読み◆◇
 おおおと再度声があがる
て膨らむすごいおいしそういいにお
もう食べてもいいの?
 祥子センセが目を輝かせるああちと待
軍手をはめた手で岩井クンは制した
熱いしまだ味がついていません何味にします?
甘辛味
 了解ですと岩井クンはあらかじめ作てきたタレを
膨らんだかきもちへハケで塗る軍手で裏返し裏面にも
乾いたところを祥子センセの皿へおいた
ただきまうわくさく
わふわおいひい
 満面の笑顔になた祥子センセに岩井クンは目を細め
僕は塩味がいいな
アタシは甘いやつ
 嶋太郎とモモちんの注文にはいはいと答え
井クンはパ姿の青年に顔を向けた
キジさんはどうされますか?
僕までいいんですか? なら塩味でお願いします
はい
それからもとラフな口調で構いませんほかの学生
に怪しまれますし
 ひとまわりも年上の人にいえるかと思いつつも
と返答をする
僕もタツキさんて呼ばせていただきます
 はあと答える岩井クンとなんですと声を
裏返すモモちんの声が重なる
木慈きじあんた調子にのてんじないわよ
アタシの岩井クンのフストネムを呼ぶだなんて
レイチルたちならまだしも馴れ馴れしいにもほどが
あるわ
だからこそです藻茂もも先輩と同じ呼び方をす
るなんておそれ多くてだからタツキさんにしまし

 うぐうとモモちんが唇を震わせる
 モモちんを先輩と呼ぶ学生風の青年彼は岩井クン
専属のSPであ
 ずと気配を感じつつも数カ月姿をあらわさず岩井ク
ンの警護をしていた人物であるモモちんがアタシ
の後輩よ優秀なのそろそろ紹介するわねと告げて
ひと月が経過しての対面である
 岩井クンの前でずとにこにこと笑ている青年
 どこからどう見ても学生にしか見えないのだが
彼が木慈岩井クンが十月にここへ配属してから岩井
クンについていたSPこう見えても三十二よ
さんじうに
 失礼とはわかていても思わずひらがなでさけんだ
すごい童顔でし? 陸上自衛隊時代はコレで苦労し
たみたいだけどSPになてからは重宝しているのよ
 ハイとキジはあどけなく笑う現役入学学生の友人
・秋吉あきよしと同年齢二十一歳くらいにしか見
えない肌もつやつやであるしみじみと見ていると
タツキさんほどじないですよと返された
 どうしてぼくの気持ちがわか
ダテにSPをしていませんはふはふ本当だこれ
は芳ばしくておいしいですねいやタツキさんが作
たからですかね
木慈あんた本当に調子にのるんじないわよ
それにタツキタツキて馴れ馴れしくて聞いてる
ちが腹が立つわ
 モモちんがドスのきいた声を出す慣れているのか
キジは意に介することなくそうだ先輩と明るい顔を
モモちんへ向ける
タツキさんにキチンカを使てもらうのはどうで
すか?
チンカ
大学構内でも体育館前とか中央図書館前に昼になると
出ているアレですよ車内で料理を作て販売している
ヤツ

二月にそなえて? 二月にそんなコトしている暇
があると思てんの?
なくてもタツキさんなら身近なものでやりそうですし
 うぐうとモモちんは再び黙る
 二月
 岩井クンは視線を伏せてかきもちを焼く
 二月になにかが起きるだからそれまでにNa・S蓄
電池を三万個作るように岩井クンは祥子センセたちから
無茶苦茶な厳命をされているバイト代も出る楽に生
活できるほどの金額であるそしてこれは学会やデモン
ストレンで使うのではない
 ならば二月になにがあるのか
 起きるのか
 ずと知らされずにひたすらNa・S蓄電池を作らさ
れ続けていたけれどいまはもう
 岩井クンの思いをくんだようにモモちんが肩をすく
めた
わかたわ木慈手配を頼むわドなタイプの
車両にして
はいこんなに大量にあても食べきれないでし
うからかきもちも積んでおきますね
 えと不満の声をあげる祥子センセへキジはにこり
タツキさんのアパトにも五箱も届きましたそれ
をここで食べては?と告げた
 だなんで知てんのどこまで知
んの
 ぼくのプライバシは? 
 そこまで思て岩井クンはハとする
 ひとしておばちんたちの前にあらわれた普通
の学生さん
ああ僕です
 さらりと答えるキジに岩井クンは両手で顔をおおう
 お願いだから声にしていないことに答えないで優秀
なのはよくわかたけどこわいじ
 その翌日のことであ
 学食へ向かていると岩井クンは背中を叩かれた
 見知らぬ教員風の人が立ていた

 警戒した視線を向ける岩井クンへああそうか急にご
めんと教員風の人は慌てて続けた
僕は応用エコマテリアル分野の助教塩野研の岩井ク
ンだよね
そうですけど
頼みがあるんだつなひき大会に参加してくれないか
つなひき大会?
 思いきり顔をしかめるこの人なにをいてんだ?
明日からあるんだよほら
 自称助教は斜め前にあるポスタを指で示した
 本当だ北大工学系つなひき大会てある
いまは一月だよ? こんな真冬につなひき? なん
でつなひき?
 疑問符が頭の中をかけめぐるそもそも目の前の人が
本当に助教という保証もない岩井クンはなおも警戒し
た声を出すヤバい目にはこの数カ月本当にイヤにな
るほど遭ているいまさらとは思うがまだ君野総長
の手が回ている?
応エコマテていいました
うんそう
 いいながら自称助教はポケトから職員証をとり出し
岩井クンへ見せた本当に助教のようであそれは
それで学生へわざわざ親切に身分証明をするのも怪し
 あのと岩井クンはなおも警戒したまま声を出す
塩野研は応エコマテじないんで参加するのはどうか
大丈夫細かいことをいえば塩野研てエネルギ
換マテリアルに入るから応エコマテに関係するし
 大学独自のそのへんの分類になるとややこしすぎてよ
くわからないしかたなく黙ていると助教は続けた
そうじなくてもどこも人手不足だから大会をやる
のに助人はOKなんだよさすがに観光客はNGだけ
ど学生ならとおりすがりの歯学部生でもいいくらい
 ずいぶんといい加減だなあきれる岩井クンへ
あ明日頼んだよと明るく声をかけて助教は去

 出るのはいいとしてなんでぼくを誘
たんだ?
 思わず顎に手を当てる近くにいるはずのキジに相談
しようとふり返たときであ
 見覚えのある二人が手をつないで近づいて来る広い
とはいえない廊下を肩をよせ合い楽しげに歩いていた
手は指を絡め合た恋人つなぎであ
 なんとまあわかりやすいヤツらだ
 思わず岩井クンは腕を組む
 あと顔を向けたのは優花ゆうかんのほうで
秋吉は自慢げな笑みを岩井クンへ向ける
あのね私たち
見ればわかる
 そして岩井クンは拳を作りと二人の額をコツン
と叩いた
遅すぎるでしつき合うまでに三年かかる
校生かよ
 優花ちんははにかんで頬を赤らめる
 秋吉も優花ちんも岩井クンが大学へ入てずと親
身につきあてくれる大切な友人だ大切すぎてひと
月前は優花ちんのために岩井クンは肋骨を数本折ると
いう事態に陥たほどである
 岩井クンは優花ちんへ小声でたずねた
研究室かわれた?
北キンパスの蓄電池をやている研究室に入れたわ
秋吉クンがいろいろやてくれてリチウムイオン電池
なの
最近また流行りだもんね
さすがているんだ
ワルツネ教授が何本か論文書いてて祥子
センセから読むようにいわれたからね
ワルツネ教授守備範囲
 秋吉が目を丸くし飯食おうぜと学食へ歩き出す
うんと嬉しげに続く優花ちんに岩井クンはやわらか
く目を細めた
 先月意を決して君野総長と話をしてよか
 岩井クンは胸の中で深くうなずく続きは本編
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