abstract

連作短編ミステリ。
研究室へ突如あらわれた外国人壮年男性、シュワちゃん。彼はなんと蓄電池業界では世界的権威の研究者で、しかもお忍び来日。美人・天才・天然の三種の神器を兼ね備えた祥子センセ(准教授)25歳、今度はなにをやらかした!? 戦々恐々とする岩井クンの不安はおおむね当たり……。おばあちゃん直伝の鬼まんじゅうが北大を救う? そしておばあちゃんは──。

about

【原稿用紙換算枚数】93枚
【読了目安時間】1時間
2018/3/28 配信開始

試し読み

◇◆試し読み◆◇
 どうしてこうな
 岩井クンは涙目で菜めしおにぎりをにぎりつつ同時
に鬼まんじうを蒸し器にかけるちも量が多いの
で二時間以上の作業である
そりバイト代はたぷりもらてるし愛知より
は高いけど札幌でもサツマイモ売てるけどさ
 なんでぼくがこんな作業を
 抑揚をつけておにぎりをにぎらないとやていられな
いくらいの量である祥子センセに加えてシワち
の分とくるとちもいままでの二倍である
それを黙てモモちんさんが見てたら食べてもら
わないと悪いじんか
 さらには業者のような荷物の多さに目を見張た秋吉
おれも食いたいと目をキラキラさせたから
ても作ても足りない状態である
 学食で秋吉が騒ぐので生協のおばちんがやて来て
わたしにも作り方教えてくれる?と耳打ちしてきた
ほどであ
 おばあちん直伝のおやつが役に立つのはうれしい
 おいしいといてもらえたら胸がぽかぽかとあたか
くなる
 だけどだけど
おかげでぼくは毎朝五時起きだよそんなアパ
暮らしの大学生いねどんな仕出しのバイトだよ
 ふんがと岩井クンは三巡目の鬼まんじうを蒸し
器にかける
 焦りはほかにもあ
 NAS蓄電池だ
 やと構造がわかりかけてきてそれこそ研究室に泊
まり込みで作業を進めたいところなのに研究室に蒸し
器はないから戻らねばならずおかげで睡眠時間を
んと確保できているけど
 そんな岩井クンにそうだと祥子センセは菜めしお
にぎりをほおばりつつ告げた
岩井クンワちんのお世話係してみ? 英語の

勉強になるよ?
 へと固まる岩井クンにシワちんが驚いた顔をす
タツキは英語が話せなかたのか?
そうなんだよ今後のことを考えると英語どころか
フランス語とドイツ語とフンランド語あたりも使える
ようになてもらいたいトコなのにワち
ろしく
 シワちんは力強くうなずく
 ちなみにカコ内は英会話である
 だがしかし岩井クンは知ていた
 祥子センセはシワちんがじと作業を見ている
のがうとうしくてたまらなかたことを熟考の末に
入力しようとしたところをシワちんが話しかけて
ああもうという顔をしているのをなんど見たこと
 体よくシワちんを追払うために学生教育をもち
出すなんて汚いぞぼくだてNAS蓄電池を作る時間
を削ておやつを作らされているんだ
 声高に訴えようとしたものの遅か
タツキはこれを作ろうとしているのか?
 シワちんは岩井クンの作りかけのデモNAS蓄電
池を手にとるそれはと手を伸ばす岩井クンへシ
ワちんはきぱりとこれまた告げた
この接続が間違ているこれでは蓄電できない
 えと身を乗り出したのが運のつき
 図面だけ渡して放置の祥子センセの代わりに英語で
あろうが教えてくれる人物がいようとは不覚にも岩井
クンは感動してならここはどうですかね
ト デス? ザト? えと緑色の配線グリ
ワイヤと怪しげな会話を繰り広げることとな
 NAS蓄電池の完成のためである
 なりふり構ていられない
 岩井クンは必死にゼスチ交えて能ミソの中にある
英単語を駆使しシワちんと対峙した対話ではない
まさしく戦い対峙であ
 そんな岩井クンにシワちんも適当に受け流すので

はなく懇切丁寧に接してくれた
 日常会話はわからない
 けれどぼくたちには蓄電池という共通アイテムがある
 これを介せば話が見える
 教授の生活や風習は知らないけど蓄電池の構造なら
わかる
 わかるぞ
 ありがとう蓄電池
 岩井クンは日になんども胸の中でさけんだ
 そんなこんなで数日が経過し岩井クンは午前の授業
が終わるとすぐさま学食へ向かさと食べて研
究室へいきたか
 まさに教職員も昼休みの時間帯丼物コやレジ
だけでなく無料のうすいお茶をカプにつぐにも列
ができているそれでも長丁場にそなえて力をつけねば
岩井クンは意気込んで豚丼ぶたどんにギザ黒酢
野菜あんかけにオクラのお浸し小鉢をトレに乗せて列
に並んだ
うほエリト研究室のヤツは食うもんが違うねえ
 どこから来たのか秋吉であ
おれの分のお茶も頼むわ席とてくるからさ
 秋吉はすたすたと人ごみへ入ていくぼくのトレ
のどこへふたつも湯飲みをおけと? 岩井クンがぷりぷ
りしながらなんとかうすいお茶をそそいで秋吉のもと
へいくと秋吉はすでに窓際の席でラメンをすす
いた
少しは待てろよそれにそれ海老だし味噌ラ
ンじしかも大盛り? おれより高いじんか
の口で食うもんが違うて? プラス大福デザト?
いいだろ十勝産のつぶあんぎしりらしいぜ? 
最後の一皿だ
 ふと岩井クンは席に座る
 まあ大福はうらやましくもなんともない
 岩井クンは祥子センセのおじいちんの大福を味わい
済みであるあれに勝る大福はないなぜか誇らしげな
気持ちで豚丼にオクラをぶかけてわしわしとかき込
もうとしたそのときであ

オクラはそうやて食べるものだたのか? いろ
どりがよかたから合わせてみたのだが失敗か?
 岩井クンは咳き込む
 シワちんが岩井クンの背後に立ていたトレ
をもている言葉どおりオクラのお浸しと鶏とレン
コンの天ぷらそばだ
 渋い渋すぎるていうか教授コレ食べられ
るのか? 
 怪訝な顔をする岩井クンに秋吉が誰?と小声でた
ずねた
 ああそうか秋吉は顔までは知らないのか
この人がストロング・シワルツネ教授
教授よかたら隣にどうぞ秋吉カバンどけろよ
 シワちんが岩井クンの隣へ座て秋吉の大福をじ
と見たん? と岩井クンが首をかしげたのと秋吉
がラメンにむせるのが同時だ
大丈夫かよ
げほげぼ
す?
ストロング・シワルツネ教授
 秋吉がさけんで立ちあが
 つかのま食堂の喧噪がやむ教員も学生も業者も秋吉
というかシワちんにふり返
 あそうかしま
 教授てお忍びで北大へ来たんだけか
 そう思たときには遅か
 操り人形のようにひとりまたひとりと立ちあがる
ふらふらとシワちんへ近づいた誰かがエクスキ
ズ ミと話しかけるワちんがん? 
と顔をあげたのが合図とな
 わあと興奮した面持ちで教員がシワちんへつ
めかけたつられた学生まで押しよせるひいと岩井
クンは手で頭を隠しワちんはなにかを声高にま
くしたてた
岩井クン
 ぐいと大きな手が岩井クンの腕をつかんだモモち
んであ

ちへ来て早く
教授は?
大丈夫だから
 なにがどう大丈夫なのだ
 わけがわからないまま岩井クンは必死で学食を脱出す
               続きは本編
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