abstract

お仕事系長編サスペンス。
ダウジングスキルを持つオージーガールのユウ。上司のマースが失踪し、大好きな別部署の上司ロストがユウへ説く。「君しかなんとかできる人材はいないのです」。ロストさんがあたしをそこまで買っていてくれる? ヨロコビに震えるユウ。だがしかし。世の中甘くはなく、上司大好き犬系男子・レインマンがお目付け役としてついて来た。ヘタをすれば手柄を横取りされる。冗談じゃない。そして今度の事件は──自噴オイル! ……自噴オイルってなんだ!? 

about

【RWMとの関連性】
『ストームセル・メレンゲ』から2年半後。『輪廻するペンギンたち』『ガラスのくびかざり』を経た作品。プチ氷河期は終わり、リバウンドで温暖化が進む世界が舞台。
(『北大西洋掘削大量オイル流出問題』『ゴミベルト問題』『農業排水による藻の大量発生およびデッドゾーン問題』)
【原稿用紙換算枚数】330枚
【読了目安時間】5時間
2017/3/29 配信開始

contents

第1章 ダウジングガールはクールガイがお好き
第2章 ダウジングガールはいかにダウジングするか
第3章 ダウジングガールは無自覚すぎる
第4章 ダウジングガールは命運を握る
第5章 ダウジングガールはファザコンを自覚する

試し読み

◇◆試し読み◆◇

 ああもう、とユウはヤケクソに答える。
「まずは南極海。そっちをさっさとやって北大西洋に行けばいいんでしょ? やるわよ。やりますよ。お仕事ですから」
 それでディーバにまた何か作ってもらうんだ、と意気込むユウへ、『あ、ちょっと待って』とレインマンが遮った。
「今度は何? さっき、カフェでレインマンに止められて、こんな目に遭っているんですがー」
『僕のせい? 遅かれ早かれユウの仕事が増えたとは思うけどね。それにまた増えた』
「何が?」
『任務』
「はあ?」
『碓氷も本当に容赦がないね。ユウ、碓氷に何かした?』
「どれかなあ」
『……どれだけやっているの。とにかくデータを送ったから見て』
 データ? 
 首をかしげつつユウは操縦モニターの右側サイドモニターのパネルをタップした。わらわらとモニターに数字が表示していく。黒地に緑色の数字の羅列だ。
「何これ。何この量」
『マースさんがいないからねえ。ほかの修繕部員に割り振っているみたい』
「部長っ、今までひとりでどれだけ任務をこなしていたのっ」
『さすが伝説の英雄になり過ぎて部隊にいられなくなってウチに来ただけのことはあるよね』
「他人事みたいに言わないで」
『わかっている。最後までちゃんと付き合うよ。ユウと一緒なら楽しいくらいだ』
 なんですって? 最後まで? それは……。
「あたしはずっとレインマンに見張られているってこと?」
『ここは喜んで欲しいところなんだけどな』
 レインマンは苦笑する。
『それに修繕部員が情報調査部員とペアを組んで任務に当たるのはよくあることだよ。効率もよくなる。ユウは措置任務に専念できるんだから』
「あたしはひとりで任務をやりたい派なんだけど」
 そのときだ。
 機内の回線から碓氷の怒鳴り声が聞こえた。
『ごちゃごちゃ文句ばっかり言ってんじゃない。わたしの采配が気に入らないと? そう言いたいのか?』
「滅相もありません」
 ユウは慌てて答える。碓氷に反論したらもっと仕事が増える。
『さっさとデータを見ろ。そしてメールも見ろ』
 メール? 
 操縦モニターに送信されてきたメールを開いて、ユウは思わず「ひっ」と声を上げた。
 案件名と案件数、そしてその緊急度合がつらつらと書いてあった。その数……千件は下らない。この件数を碓氷がわざわざコールして急かすということは。
『それ、末尾にも記載したが、七十二時間以内に措置完了しないと倍もしくはその二乗の案件数に跳ね上がるとフォックスがシミュレーションを出した』
「二乗っ。どんな計算っ」
『マースがいればさっさと終わる案件ばっかなんだが。いないものはしょうがない。やれ』
「部長、どれだけ任務が好きだったのっ。そしてどんな機動力っ」
『安心しろ。お前らにそこまでの機動力は求めてない。というか無理だ。アイツが特別というか変態なだけだ』
 部長……、とユウは拳を震わせる。
『泣くな。なんのためにレインマンをつけたと思っているんだ。ちゃんとダウジングスキルで見つけた情報も伝えろよ』
 ああ、そっちもあったかー。
『それからくれぐれも環境干渉域二%を超えるなよ。レインマン、ユウの手綱《たづな》をしっかりな』
「あたしは馬?」
『じゃじゃ馬だろうが。自覚がないのか? じゃあな』
 ぶつりと回線が切れる。
 意識が白くなる──。
 千件を超える任務数。
 期限は七十二時間。
 しかもダウジングスキルでいろいろ調査しつつ?
 かつ環境干渉域二%を超えないようにやれ?
 そしてお目付け役のレインマンがいる?
 ユウは叫ぶ。
「無理無理無理無理っ」
 ユウ、とレインマンが柔らかく声をかけた。
『僕は君のお目付け役なんかじゃないよ。君のパートナーだ』
「その言い方、なんかいやらしい」
『どうせだったら部長がよかった? だけど部長が君のサポートについたら、君は過労で死んじゃうよ?』
「ロストさんがあたしのサポートだなんて、そんな恐れ多いこと思いもしなかったわよ」
『部長のそばにいたかったっていうのなら僕も同じだよ』
「ライバルだって言いたいの? ごめんなさいねー。間抜けな女が邪魔をしてー」
 ははは、とレインマンは笑う。
『ユウが早く失恋できるといいのにな』
はあっ? とユウは声を裏返す。

(続きは、本編で)

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