長編SFサスペンス。 動植物と自在に会話ができる少女・ミズキ、史上最強ESP能力者の少女・マリア。二人は世界を守るために人類滅亡作戦「ミッションくらげ」を敢行する。ところがそこで二つの別の計画が持ち上がり、二人はどんどん奔走されて行って。二人は無事に世界を救うことができるのか。十三年に渡ってマリアの側にいた男・ロック、そして同じく十三年の年月ミズキを思い続けた青年・ハヤト。二人が彼女たちを思ったのも……偶然ではない!?
【RWMとの関連性】 グローバルGから出向しているロックは、もとはRWM所属で、RWMからグローバルGへ出向。これまた本件が発生すると予測した会長の手配で13年前からロックはマリア付きにされていた。ちなみにマリアは会長の姪に当たる。 (『生態系大幅変遷事件』『プレートテクトニクス活発化』) 【原稿用紙換算枚数】452枚 【読了目安時間】5時間 2015/12/25 配信開始
◇◆試し読み◆◇ よかったー、とミズキは明るく笑った。窓の外に視線を向けている。窓の外からアドバイスをもらったのか。 「……最近の動植物は人間の開発する装置に詳しいのね」 「彼らもいわゆるネットワークだよね。生物間のネットワークは人間の作り出したネットを凌駕する勢いなんだよ。その気になれば相手にもならない」 ふうん、と乾いた声が出る。ミズキはそれが気に入らなかったらしく、だから、とマリアに詰め寄った。 「山には気をつけてねっ」 「山ってあなたを育てた存在でしょう? あなたの味方のはずよね。どうしてそれに気をつけるの? そもそもどうやって気をつけるの」 そうなんだけどー、とミズキはうつむく。なんかねー、と言いにくそうに口を開く。 「何かありそう」 「……凄まじく漠然とした予感ね。それなら私もいつも感じている」 「そうじゃなくてさー。何か、企んでいるっていうか、何かあるっていうか」 「そういうのは早く教えなさいよ」 「だいたいハヤトくんの事件が起きたのと『G侵略』が起きた日時がほぼ同時期っておかしいよね。いつから? 何が起きてるのかな」 それこそマリアは目を見開いた。こんなところで『G侵略』が出るとは思わなかった。なぜ、この子がそれを知っている? 知っているとしたら。 「山がそれを教えたの? 私が『ミス・マリア』って呼ばれていることも。あなたは私の何を知っているの」 「ん? だいたいの生い立ち。山が教えてくれた。だから『ミッションくらげ』もやってもいいかなって思えたんだよ」 頭に血が上りそうになる。やっとのことでそれを押さえて、マリアは額に手を当てた。そういうことか。だからあっさり、この子は私の計画に乗ったのか。確かに──山は警戒すべき存在のようだ。 だから、とミズキは立ち上がる。食器を片づけ何やら荷物をまとめ始めた。 「あたしはあたしなりに全力を出すけどね。二万年っていう数字も嘘じゃないだろけど、多分、あてにならないな。まあ、山たちがそういうなら、二万年でいいと思うけど。なんか別の思惑を感じるんだよね。──覚悟しておいて」 山や海を相手にどう覚悟しろというのか。眉をしかめつつマリアはミズキに向き直った。 「なんども言うけど、あなたも気をつけなさいよ。皇国はあなたを狙っている」 にかっとミズキが笑った。 「マリアが守ってくれるんだよね」 あのね、と声を荒げそうになる。それとは別に気をつけろと、と言いかけると、不意にミズキが抱きついてきた。 「ありがとう」 「え」 「あたしを誘ってくれて、ありがとう」 マリアを抱き締めるミズキの手の力が強くなる。ミズキの手が震えていた。マリアの胸が苦しくなる。この子は──これから死ににいくようなものなのに、それなのに、私に感謝をする? マリアは声を振り絞る。 「……馬鹿ね」 えへへ、とミズキが離れた。慣れないことをするもんじゃないね、と頭に手をやっていた。照れているようだ。 「じゃあ行くよ」 え、と辺りを見回す。すっかり片付いていた。ミズキはいつものジーンズにパーカーそれにジャケット姿で大学へ行くようにナップサックを肩にかけていた。手には転送装置だ。 「まずはマッキンリーにいってみる。連絡事項は、えーと、テレパシーで伝えて。あたしも精一杯叫んでみる。それをキャッチしてよ」 「どれだけ私を信用しているのよ」 しまくっているに決まってるじゃん、とミズキは笑う。靴を履いて、じゃあね、とドアを開いたところでミズキが止まった。通路の窓の向うに誰かが立っているのが見えた。 ハヤトだ。 こんなときまでミズキにまとわりつかなくても、厄介な、とマリアが思ったときだった。ミズキがハヤトに向かって小さく右手を振った。ばいばい。そう伝えるように。 え? と思ったときにはミズキは転送装置のパネルに触れていた。笑顔の残像を残して、ミズキはマリアの前から消えた。 だらりと両手を下げる。──あの子、彼が好きだったの? いつから? ひょっとして八歳からずっと? それなのに私は。身体が震えた。私はミズキにとんでもないことを頼んだのでは。息が荒くなった。……なんてことだ。だから──やっぱり。奥歯を噛み締める。どんなにリスクがあろうともひとりでやるべきだったのだ。 「でも……もう、手遅れだわ」 マリアは首を振る。 そのマリアの背後からそっとロックが声をかけた。 「ミス・マリア。──皇国が動きました」 「状況開始ではなくて?」 はい、とロックは一拍置く。 「諸各国軍部に声明を出しました」 (続きは、本編で)