abstract

長編サスペンス。
風に色がついて見える、風車大好きな女の子・風香。その風香たちの研修先、世界最大級の風力発電所で爆発事故が発生。さらに爆発は世界中の風力発電所を襲う。風車をとりまく風の色がどんどん変わっていき、やがて赤い風が吹いて──。しかも、風が止まったら施設そのものが爆発する!? ピンチを救えるのは風が見える風香。でもどうやって? 「君のその力を貸してくれるかな」。力強い青い瞳の青年が風香へ手を差し出す。風の吹く先、そこは──。

about

【RWMとの関連性】
ナユタがディーバと出会う前の2年前の話である。
【メモ】
作中で出て来る「圧縮空気エネルギー貯蔵庫(CASEシステム)」はわたくしの創作物ではなく、現在世界中で取り入れつつあるシステム。地中に風(空気)を圧縮して閉じ込めて貯めておくというもの。蓄電池以外の蓄エネルギー技術として注目されている。
アメリカワシントン州東部の施設などでは稼働しており、日本でも北海道などでテストを実施中。海中でのテストも世界各地で行われている。
(『風力エネルギー圧縮ガス事件』『ウインド・シャドー問題』)
【原稿用紙換算枚数】447枚
【読了目安時間】5時間
2016/10/7 配信開始

contents

第1章 白い風
第2章 黄色い風
第3章 灰色の風
第4章 赤い風
第5章 緑の風
第6章 青い風

試し読み


◇◆試し読み◆◇

 だから──素人では爆発は起こせない。
 ゆえに犯人は風力発電関係者か、もしくはそれに熟知した者の犯行である。しかも単独犯ではなく組織的犯行。それが警察の見解だった。そして犯行を確実に行うためには全員でなくても犯人のひとりは現場にいるほうがいい。ゆえに、当時現場にいた人間、そのすべてを警察が洗っているという。
 そして、爆発当時、まさに現場そのもののウインドファームの中にいた人間、風香たちは犯人の線が濃厚というわけだ。
 ちょ、ちょっと待てよ、と声が上がる。
「じゃあ、おれたちの中にひょっとしたら犯人がいるってことか?」
 途端に食堂の空気が緊迫した。風香も目だけで周囲を見回す。ついさっきまで同じ被害者だった十数名。研修参加ツアーまで中止になって、とんでもない目に遭ったと同類意識を持っていた。
 それが? ……この中に、あの巨大で真っ白い風車を真っ二つに折った犯人がいる? 風車が大好きって顔をしながら、風車を壊すタイミングを計っていた?
 風香の身体が熱くなる。指先が震えた。許せないという気持ちが込み上げる。
 そう思っていたのだが。
 風香は視線を感じた。自分だけではない。爽へも視線が向けられていた。それもひとりではない。周囲全体の視線だ。何かと爽へ声をかけていた女性参加者たちですら鋭い視線を向けていた。
 え? ちょっと待ってよ。あたしたち? 疑われているのはあたしたちなの?
 冗談じゃないと声を上げようとしたとき、爽が風香の腕を引いた。
「騒ぎにしないで。気づいている? この研修見学ツアー参加者の中で、僕たちだけが外国人だってこと」
「……あ」
「ほかの参加者はみんな国内からの参加だよね。いつもはどうかは知らないけど、今回はたまたま十数名の参加者の中で僕たちだけが外国人だった──分が悪いよね」
 そんな、と力のない声が漏れ出る。たかがそんなことで犯人に仕立て上げられるなんて。それでも、爽が騒ぐなというのはわかった。食堂の中で誰もが敵のような顔をしている。この中で反論したらなおさら怪しい。逆の立場だとしても、怪しく思う。
 まあまあ、とジョージが明るい声を出した。
「事情聴収つっても形式的なことだ。オレたちも受けた。ほかのスタッフも今受けているところだ。爆発当時、ここにいたのが運が悪かったと思って、ちゃっちゃと受けてやってくれや」
 ああもちろん、とジョージは続ける。
「ランチは食ってくれ。しっかり食って、警察の連中に愉快なジョークでも聞かせてやってくれよ。順番に呼びに来るからよ」
 そう言われても食欲など吹き飛んでいた。それでも気持ちを落ち着かせるためか、何人かはスープやコーヒーを取りに向かった。
「風香、何か飲む?」
 爽の声に風香は首を振る。だよね、と爽も苦笑する。
「取調なんて初体験だよ。緊張してきちゃった。オレンジジュースでも飲もうかな?」
 風香もいる? と言いかける爽の前にジョージが立った。
「ちょっと悪いんだけどな」
 ジョージは爽と風香に小声で話しかける。
「警察なんだがな。──二人には特に詳しく話を聞きたいって引かない。『こいつらはまったく問題ない』って言っても聞く耳なしだ。すまんが今から別室の取調室へ一緒に来てくれ」
 そんな、と思わずなじる声が出た。
 風車が壊れて悔しいくらいなのに、どうしてそんな話になるの? あたしがこの手で犯人を捜し出して詰問したいくらいなのに。
 ジョージが苦笑する。
「風香、そんな目で見ないでくれ。心配するな。オレとエマは全力でお前たちの力になる」
 爽がジョージの前に出る。
「僕たちが犯人に仕立て上げられそうになったら、身体を張って阻止してくれるとでも言うんですか?」
 爽、と風香は制した。けれどジョージは真剣に「そうだ」と断言した。
「……風香。お前、あの爆発があって泣いただろ? 風車が壊れて泣けるなんて、そんな本気で風車大好きっ子にこんな事件は起こせない。風車を壊せなんて任務が来たら絶対に拒否する。そうだろ?」
 風香は大きくうなずく。
「だから安心して取調を受けてくれ。その席にはオレもエマも同席する。爽の場合も同じだ。安心しろ」
 んじゃ行くぜ、とジョージは風香と爽の背中に手を当てた。背中から力が湧いてくる。濡れ衣なんて着ないんだから、と腹に力を入れた。
 そのときだ。
 長身の男が三人の行く手を塞いだ。
「その必要はないよ」
「なんだと?」
 ジョージが訝るのも構わず、男は食堂中に響く声で断言した。
「この二人は問題ない。俺たちがすでに調査済みだ。完全にクリーンだ。警察にも政府にも伝えてある。事情聴収の必要すらない」
 ジョージが警戒した声を出す。
「あんた誰だ? ウチの社員でも警察でもないよな」
 これは失礼した、と男はジョージに笑みを浮かべた。
「俺はRWMの修繕部員だ。『ナユタ』という。コードネームだけどね」
 そしてナユタと名乗った男は風香へ顔を近づけた。
「君が風香だね。頼みがあるんだ」
 頼み? 風香の視線が揺れる。
「君のその力でちょっと手助けしてくれないかな」
「え?」
「風に色がついて見えるスキル」
 風香の心臓が跳ね上がる。
 どうして──どうしてそれを?
「それはね。──『共感覚』っていうんだよ」

(続きは、本編で)

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