about

2017年度ハロウィン企画。
『小説家になろう』においても掲載。
ハロウィンだよ。なにかイベントやろうよ──。ずっとそうおじいちゃんへ言い続けてきた祥子。そのおじいちゃんが──。カボチャ嫌いだったおじいちゃんからの、とびきりのハロウィンプレゼント。
https://ncode.syosetu.com/novelview/infotop/ncode/n6752eh/ 

本文(全文)

おじいちんのハロウン限定カボチ大福
                  天川さく
 祥子へ
 
 急なことで驚いただろう
 おれも驚いている一緒だなうがない寿命に
は勝てん
 ということで嶋太郎くん会心のデキの大福を渡した
 食え
 やとお前へ渡せてそれで逝ける
 心残りはない
 お前はお前でしかりやれ
 お前という孫を持てておれはしあわせだ
 生き切たと断言できる
 どうだ羨ましいだろう
 じあな
 ありがとうな
イモカボチは終戦前後に食いあきたカボ
を使た大福なんざどんな客が食うてんだ
野大福商店の屋号が泣くべて言ていたのは誰よ
 祥子は鼻をすすて手紙をたたむ
 それでもと隣に座た嶋太郎が祥子へハンカチを差
し出した
おじいさんは毎年この季節になると作ていたよ
どうして知ているの
毎年僕のところへ試作品だ忌憚のない意見を聞
かせてくれて送てきたからル便で
ぜんぜん聞いてない
祥子には言うなてさ血筋は争えないね二人
とも頑固だあきれるよ

それで今回の作品に嶋太郎はこれは美味しい
答えたの?
 うんとしんみりと嶋太郎はうなずくそれから
と喪服のスツの懐から取り出した小箱を祥子へ渡
した
まさか
おじいさんのハロウン限定カボチ大福
持ち歩いていたの?
うん保冷材を入れてあるから大丈夫
 そうじなくてと額に手を当てる
 コイツと離婚をして本当に正解だハタチで
結婚した自分もどうかと思うけれど火葬場の今まさ
におじいちんが灰になているのを待つこの時間にな
ぜ渡す?
 しかもしんみりと火葬場の火葬炉のあるあたりを眺
めている最中である本当は煙突が見たかたのだが
現在の火葬場で煙突のあるところは皆無だ
 遺言のような手紙を渡されて読むまではいい
 ここで記載のあた大福を渡すお前にデリカシ
はないのか
 祥子と嶋太郎が顔をのぞいてくる
自分の立場わかてる? いくら別れた夫だとはい
僕は君のエントだよ君のスケジルがど
れだけ過密かわかているんですか新進気鋭の科学者
さん
科学者に新進気鋭とかあるの?
弱冠二十四歳にして特許とりまくているのは誰? 
その管理やら申請をしているのは?
嶋太郎くんですいつもありがとうございます
このあと午後の便の飛行機で東京へ戻るから今のう
ちに食べなよ北海道のこの地域の本葬が早朝ていう
風習助かるな
塩野大福商店の後処理は? ほかにもいろいろやるこ
とがあるでし
祥子にできるわけないじもうウチの連中が役場
とかいろいろ行てやてる
お店をたたむのはいいだけどあの場所を売るのは

わかてるんと残してある定期的に掃除をし
てくれる人の手配もすんでる安心しなさい
 唇を噛むデリカシはないけれどなんて有能なエ
ントだ
 嶋太郎はポンポンと祥子の肩を叩く
 そしておもむろに立ち上がるととトイレ
て館内へ入て行祥子の膝に大福の箱だけが
残る
 火葬場の火葬炉近くの屋外のベンチ十月末の北海道
はダウンコトを着てもいいほど寒くて祥子以外の人
影はない嶋太郎が戻てくる気配もない
 多分嶋太郎なりの優しさだろう気兼ねなくあた
しが大福を食べられるようにと席をはずしてくれたのだ
 祥子はかじかむ手で大福の箱を開いた
 そして目を見張
と声が出る
かわゆい
 大福はオレンジ色に着色されカボチを模した切れ
込みがありそこから粒あんが見えていたオレンジ色
の大福生地に黒い粒あんが大福に絶妙な表情をつけてい
北海道民は粒あんが大好きだこしあんでは商品と
して成り立たないからだろう
 ひとつではない
 小ぶりな四個セ
 笑たり泣いたり怒たり驚いたそんな表情をした
ハロウン大福だしかも頬に当たる部分がほんの
り赤く染まている
あたし?
 ぽろりと涙がこぼれる
 これあたし? 
 ぜんぶあたし?
 おじいちんにハロウン商品を作ろうと提
案したのは中学のときトやテレビでハロウンハ
ロウンと騒いでいるのでウチも是非とも便乗すべき
と主張した
 そのとき返された言葉がさきのアレだ
 高齢化の進んだこの地区でイモやカボチを喜ぶ客が

どこにいるてんだというものだ
 それでも子どもがゼロではない中学だけでなく高校
もある
学生はイベントに弱い絶対売れるよ
 と祥子は言い張り
はんかくさいアホくさい
 とおじいちんはそぽを向いた
 それでも祥子はあきらめずねえねえねえとねだり
続けた
 祥子がずば抜けたおじいちん子だた理由それは
三歳のとき両親とおばあちんが交通事故で他界したか
らだ大福の配達途中雪道でスリプした大型トラ
クに正面から激突された
 それからおじいちんは愚痴ひとつ言わず祥子を育て
てくれた
 中学高校だけでなく地区で一番の秀才となてし
た祥子を東大にまで入れてくれた東京へ行てか
らも毎日のようにおじいちんに電話を入れた
 けれどおじいちんの言うとおりだ
 寿命というのはどうしてもあるらしい
 朝まで元気だたおじいちんが昼すぎに店先で倒
れていたそのときにはもう息がなかたという
 ううん違う
 涙があふれてとまらない
具合が悪いのわたしに隠してたんだだから
こういうことがあるて思て手紙を書いたんだ
 またくもう意地張りにもほどがある病気を隠
すのもハロウンの大福を納得がいくまで十年も隠れ
て毎年作ていたことも
 それに気づかないわたし嶋太郎を笑えない
れだけ鈍感なのか
 怒た顔の大福を手に取りかぶりつく
 目を見張る
え? 何コレ粒あんじないカボチ
あん? それにホイプクリム?
 驚いた顔の大福も口へ入れた
ええ? こちはカスタドクリムが入てる

まさか全部違う味?
 箱の裏を見る
 デカデカと文字が印字されていた
 地産地消
 もち米は黒松内産のはくちう米カボチは真
狩村産くりゆたか乳製品は倉島乳業の製品砂糖
はもちろんサトウダイコン共和町産
 そりと思わず祥子は笑顔になる
十年かかるわ味にうるさい嶋太郎が褒めるわけだわ
 最後に残た笑顔の大福を手のひらに乗せる
 これが最後
 おじいちんからの最後の贈り物
 そと頬張る祥子が大好きなクリムチズと粒あ
んがたぷり入ていた
 鼻先が熱くなる目の前がぼやけて見えなくなる
じいちんの満面の笑顔が浮かんだ両手を腰に当てて
どうだこのやろうといているみたいで
おいしい
 ああ? 聞こえなねえな
 だからと祥子は顔を上げる
おいしいよ
 おじいちんが笑う
 嬉しそうに笑う
 ありがとうおじいち
 大好き
                    
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